概要|研究内容|詳細2:新規遺伝子導入・発現制御技術の開発と遺伝子治療、再生医療、ワクチン等への応用
遺伝子導入・遺伝子機能制御技術(ベクター)は遺伝子治療の成功の鍵を握る必須な要素であるとともに、新規遺伝子やタンパク質の機能解明、評価系作製、あるいはiPS細胞が4遺伝子の導入により作製されたように細胞の分化・脱分化制御手法として、今や生命科学研究全般の進展や細胞・再生医療、創薬研究になくてはならない普遍的に重要な基盤技術となっています(図4)。こうした目的に広く叶う日本独自の高性能なベクター開発は、国益を考えたうえでも最重要課題の一つであります。

図4. 画期的遺伝子導入・制御技術の活用
画期的な遺伝子導入・制御技術は、遺伝子・タンパク質機能の実証的解析や評価系作製の有力な手段の一つであるばかりでなく、プロテオミクスやゲノミクスとの双方向的解析によって、ある特定のタンパク質が他の遺伝子やタンパク質の発現に与える影響あるいは相互作用の解明、などに活用できる。さらに、創薬という観点からも有効性・安全性の高い遺伝子治療用ベクター作製や遺伝子改変細胞治療薬の創製、iPS細胞を介した基礎研究・再生医療・創薬研究の基盤となることが期待される。
我々は、既存のベクター中で最も遺伝子導入効率が高いアデノウイルスベクターの長所(高効率、高タイターのベクター調製が可能等)を生かしつつ、ウイルス表面タンパク質を遺伝子工学的に改変することにより、①標的細胞選択性を制御し、②従来遺伝子導入が困難であった細胞・組織への適用も可能なアデノウイルスベクターの開発や、免疫反応を抑えターゲティング能をもったアデノウイルスベクターの
開発、③複数の外来遺伝子を搭載し、目的遺伝子の発現制御能を付与したアデノウイルスベクターの開発、④標的細胞指向性の変更や既存中和抗体からの回避を目的として、従来の5型アデノウイルスとは異なる35型アデノウイルスを基盤とした全く新規なベクター、⑤マイクロRNAによる遺伝子発現制御系を付与したアデノウイルスベクター(あるいは癌細胞のみで選択的に複製し、癌治療薬として期待される制限増殖型アデノウイルス)等の開発に世界で最初に成功し、その有用性を明らかにしてきました(図5)。個々のベクター技術の詳細は、こちらをご覧下さい。

図5. 画期的な次世代アデノウイルスベクター
従来の5型アデノウイルスベクターに、標的細胞指向性の制御能、ターゲティング能、複数遺伝子の搭載や目的遺伝子の発現制御能等の機能を付与した次世代アデノウイルスベクターを開発した。また、異なる血清型に属する35型アデノウイルスベクターを開発した。これらのベクター系は、遺伝子治療や再生医療だけでなく、基礎研究等の生命科学研究全般での基盤技術となっている。
このようなベクター系は市販化や共同研究を通して、国内外の研究者(医学部、製薬メーカーを含む)に広く利用されています。現在は、より高機能で安全性の高いベクター技術の開発や、アデノウイルスベクターによって生じる免疫反応(特に自然免疫)のメカニズム解明研究と、それらを通した遺伝子治療やワクチンへの応用研究(図6)、再生医療への応用研究、およびそれらのベクター技術を駆使した独自の観点からの分子生物学研究を幅広く展開しています。
